私は、「これは違う」と呟いていた。そして、「これは、なしだ」と繰り返した。

中村文則『銃』
新潮新人賞受賞作。心の変異の執拗な書き込みと独特な文体が良いです。今年芥川賞の人ですね。奇妙なきっかけで銃を拾った青年がどんどんとその銃に捕らわれていく様を描いています。ラストの流れは圧巻。
「〜た。〜た。〜た。」の文体の人で、これは北山猛邦さんもそうなんだけど、こうすると荒廃的だったり、淡々としていたり、過ぎ去ってしまった過去だったり、そういうノスタルジーな、翳のある空気を出すことができるな、と読んでいて思いました。
そしてこの文体でひたすら心の変化を描くところがすごい。途中から軋み始めた主人公の心も、描ききっている。うんうん、この人は確かに実力者です。
(ただ、やや会話文で文章の緊張感が落ちるように思います、文章のレベルの違いがすごく違和感を催すのですが…)
残りの作品も読んでみよう。ちなみに
今回読んだのが『銃(新潮新人賞芥川賞候補)』、残りの作品が『遮光(野間文芸新人賞芥川賞候補)』、『土の中の子供(芥川賞)』、『悪意の手記(三島賞候補)』。かなり賞に関係してますね。

私は、自分の体がどこかに落ち込んでいくような気がし、何かに摑まりたいような、そんな発作に襲われた。そこは暗く、私は助けを求めるように周囲を見たが、脅えている彼等は、もう既に私とは違う人間だった。