阿部和重『無情の世界』

しかしオオタタツユキの耳には、どちらかというと、店のBGMのほうが、よりはっきりと、聞こえてきていたのだった。あるいはそれは彼が、無理矢理その曲だけを、聞こうとしていただけなのかもしれなかった。曲の前奏部はすでに終わっており、外国の女の歌声が、聞こえてきていた。(中略)オオタは咄嗟に眼を閉じて、外国の女の歌声だけを知覚しようと、努めた。
(「鏖(みなごろし)」)

阿部和重さんの作品は二作目。正直『インディヴィジュアル・プロジェクション』はよくわからなかったのですが(同じような読後感を持った作品は『サーチエンジン・システムクラッシュ』でした。この二つの作品は似ていると思います)、これは面白かった。現代文学、という感じですね。「トライアングルス」、「無情の世界」、そして引用した「鏖(みなごろし)」の三作です。どれも文章のテンポもよく、サクサクと読め、しかも面白かった。うーん、実にいいですね(『無情の世界』を電車で読んでいて恥ずかしくなりましたが)。
特に「鏖(みなごろし)」は良かったです。
ニッポニアニッポン』をとりあえず読もう。