古川日出男『二〇〇二年のスロウ・ボート』を読み終わる。

またのタイトルを『中国行きのスロウ・ボートRMX』。
トーリーとしては結構お粗末なものだったようにも思えます。しかし、そのある意味において浅い話というのが絶妙にリアルなようにも思えます。東京から出て行きたいと願う青年の三人のかつてのガールフレンドをめぐる物語。勿論、東京から出て行けない、なんてのは本当のようで全然嘘で、実際は簡単に出て行けるのだけど(だって僕は毎日東京から埼玉まで出て行っている)、しかしこの小説において『東京から出る』ということはそんな単なる越県では無くて、もっと魂の問題なのです。つまり『あらゆる人間が集まって巨大な生命体と化した東京』から排泄物・異分子・双子・反逆者、そういうものとして脱出するということ、しかも自分の愛する人と共に。そうでなければ意味が無い、この東京という巨大な組織に飲み込まれてはならない。そういった焦りというのは大変に共感できるものなのでした。
ラスト部分のベタなオチ(こういう言い方は失礼かもしれませんが)はやはり感動でした。勿論最終的な『東京からの脱出』への解答はやや煙にまかれた感じもしますが…。文体は独特です。初めてだったのですが、饒舌体ですね。若干のわざとらしさ、ぎこちなさが見え隠れしていましたけれど。でもすごくいいと思った部分があるので抜いておきます。

 所長のことばはどんなだった? バスに乗りこみ、両手はきちんと膝の上に置いておきなさい、だ。叫べるものなら僕は「ちがう!」と所長に叫び返していたことだろう。両手はきちんと彼女をとらえておきなさい。
 彼女を離さないで、絶対に離さないでおきなさい。

ちなみに本家・村上春樹さんの『中国行きのスロウ・ボート』は未読です。これを読んで読みたくなりました。こういう過去作品の焼き直しというのは読み比べをするとなかなか楽しいものだと思います。