真梨幸子『えんじ色心中』を読み終わる。

こんなに分かりやすく某中学をテーマにしていいのだろうか…。と思いましたが、まぁあくまでフィクションなのでOKですよね!『現実の団体・学校・個人とは無関係です』ってヤツですよね!

 なら、僕は、あんたのママを殺す計画でも考えることにするよ。家庭教師殺人計画を読んでくれたとき、あんたはあんなに喜んでくれた。あんたのその八重歯。膝に埋められたその唇がほころんで、その、きれいな八重歯が見えるまで、僕は考え続ける。僕は、何十も、何百も、殺人計画を思いついてみせるよ。あんたが喜んでくれるなら。

全体的にかなり神経質で暗く、浮かれた感じを残しつつも肌にへばり付き侵食してくるような不快感があります。作品の構図が複雑だという意見もありますが、どちらかといえばシンプルすぎるほどシンプルでしょう、読んでる間に混乱することもありませんでしたし。
前作『孤虫症』ではバイオ・サイコ・ホラーとして実はミステリ的な部分もあったんですよ、といかにもメフィスト賞といった感じでしたが、今作ではミステリ的な部分はハッキリ言って弱いです。伏線が十分に貼られているとも言いがたいですし、そもそも作品の中心になる『西池袋事件』の全容がわかったようでわからない、なのでミステリ的な謎の吸引力としては弱いと思います。
しかし、この作品はミステリ的な読み方をするものではないのでは、と僕は思いました。受験戦争の描写はリアルですし、少年少女の異質なような交友も丁寧に(神経質に)描かれており、何より現代の僕の仕事の絶望っぷりは一読の価値があると思います。文体も途中までは読み辛いと思いましたが、慣れてくると魅力的です。乾いているのに粘ついています。そして『西池袋事件』の全容が見えないのも、その事件の説明が全てメディアを通した記事として行われているからで、この記事の出来のよさ(リアルさ)から言うに、やはり現存のメディアは『事件』を正確に伝えることができていないのでしょう。
ただ作品の終わりとしては僕は第二章を作らずに第一章の構成のまま終わりまで持っていくべきだったと思います。
佐藤友哉さん『水没ピアノ』が好きな方はぜひ。